付 録 B


デザイン決定に優先度をつける

この文書はたくさんのデザイン原則とガイドラインを含んでおり、これに従うとき、適切なMac OS Xの技術に対応した、その目標とする市場においてひときわ優れた、完全にアクア準拠のアプリケーションへと導きます。

けれども、あなたがアプリケーションをデザインするのに従って、リソースの制約や日程の誓約といった、ガイドラインの隅々にまで従おうとするあなたの能力に影響を与える、ビジネス上の関心事に気が付くでしょう。

このような場合、どのようにあなたは使用するMac OS Xの技術を決定し、対応するのでしょうか？あなたのアプリケーションができるだけ最良となるように、どのようにあなたの作業に優先度をつけ、どのようにあなたの開発環境の現実味を与えるのでしょうか？

こうした質問にあなたが答える助けとなるため、この章はヒューマンインタフェースの機能、原則、ガイドラインを3つの層にまとめました。図 B-1（317ページ）はこれらの層をピラミッドの輪郭の中に表し、それぞれの連続する層においてガイドラインを実現するのに応じた、改良の進み方とアプリケーションの見直しを強調しています。

図 B-1 デザイン決定を3つの層に分けて優先度をつける

差別化

ユーザの想定する機能

最小限の要求

図 B-1（317ページ）の各層は、アプリケーションに対するユーザの満足度と密接な相互関係を持ちます。たとえば、許容できる最低限の要求だけを満たすアプリケーションは、おそらく大半のユーザが想定する機能を実現せず、使用したユーザの賞賛や忠誠心を引き出すことは期待できないでしょう。ユーザの満足は、究極的にはあなたのアプリケーションの成否を決定するため、これをあなたのデザイン決定の中心に据えるべきです。もしビジネスの現実面があなたに取捨選択を強いるなら、この章で説明するガイドラインを用いて、はじめに集中すべき機能はどれかを判断するために役立ててください。

最小限の要求に応えよ

あなたのアプリケーションをデザインする、もしくは見直す際に、あなたのアプリケーションがMac OS Xに「なじむ」ことを保障するために従う必要のある、いくつかのガイドラインがあります。あなたはこれらのガイドラインと、交渉の余地なく結びついた機能を考えてください。もしこれらに従わなければ、ユーザはあなたのアプリケーションがMacintosh向けに作られたようには感じられないことに気が付くでしょう。

Mac OS Xプラットフォーム上のアプリケーションの最小限の要求に応えるためは、必ず…

  • 単一のメニューバーを尊重し、あなたのアプリケーションのウインドウにメニューバーを置くことは避けましょう。

    Mac OS Xは画面の天辺を横切る、単一のメニューバーを提供し、これはアプリケーションにコマンドを表示するための位置の一貫性を与えます。あなたのアプリケーションがメニューバーとどのようにやり取りするかの詳細は、「メニューバーとそのメニュー」（159ページ）を参照してください。

  • Dockを尊重しましょう。

    DockはMac OS Xの欠くことのできない部分であり、ユーザはそれが各自の環境設定に合わせてふるまうことを想定しています。ごく最低限守るべきこととして、あなたのアプリケーションは画面上のDockの位置をさえぎってはいけません。加えて、あなたのアプリケーションはDockと協調して、ユーザに情報やユーティリティを提供してください。Dockの詳細は、「Dock」（56ページ）を参照してください。

  • Mac OS Xの複数階層ウインドウ環境を尊重しましょう。

    Mac OS Xは、様々な用途のための、様々な種類のウインドウに対応します。あなたのアプリケーションが表示すべきウインドウの種類はどれか、そしてそれがどのように見えるべきかを確実に知っておいてください。（これらの話題の詳細は、「ウインドウの種類」（177ページ）と「ウインドウの外見」（178ページ）を参照）加えて、「ウインドウのふるまい」（190ページ）で説明した、ウインドウを開く、名前を付ける、配置する、サイズ変更する、閉じるためのガイドラインに確実に従ってください。

  • あなたのアプリケーションが作成したファイルは適切な場所に置きましょう。

    Mac OS Xは環境設定やユーザ作成文書といった、アプリケーション固有のファイルのための特別な場所を定義しています。あなたのアプリケーションに関連付けられたファイルを、勝手に決めた場所に配置してはいけません。なぜなら、これらのファイルはファイルシステムを散らかし、ユーザはどこを探せばよいかを知らないでしょう。ファイルシステムとどのようにやり取りするかのガイドラインは、File System Overviewを参照してください。

  • 標準的なアクアコントロールを使用しましょう。

    アクアは厳密に定義されたふるまいを持つ、幅広いコントロールを提供します。あなたのアプリケーションインタフェースにおいて、これらのコントロールを使用し、規定のふるまいに対応してください。アクアコントロールのふるまい、外見、用途についての広範な情報は、「コントロール」（231ページ）を参照してください。

    極めてまれに、あなたはカスタムコントロール【独自のコントロール】を実装する必要に迫られるかもしれません。もしあなたが必要であると思ったら、「インタフェースを拡張する」（51ページ）を参照してください。

  • システム予約のキーボードショートカットを避け、アップル推奨のキーボードショートカットを尊重しましょう。

    アプリケーションは、システム予約キーボードショートカットを上書きすべきではありません。これらのショートカットは現在実行中のアプリケーションがどれかに関わらず、特定のふるまいを満たすことを意図しています。システム予約キーボードショートカットの詳細は、「予約されたキーボードショートカット」（98ページ）と「キーボードショートカットクイックリファレンス」（309ページ）を参照してください。

    アプリケーションは、それが行う作業に関連した、推奨されるキーボードショートカットを実装するべきです。もし、たとえば、あなたのアプリケーションが保存操作を行うのであれば、この作業のためにCommand-Sのキーボードショートカットを実装すべきです。ほとんど全ての場合、アプリケーションは推奨されるキーボードショートカットを上書きすべきではありません。たとえば、Macintoshユーザはどんなアプリケーションを使用しているかに関係なく、Command-Sを保存の意味にとることができるべきでしょう。推奨されるキーボードショートカットの広範な一覧は、「キーボードショートカットクイックリファレンス」（309ページ）を参照してください。メニューにおいて、推奨されるキーボードショートカットがどのように使用されるのかは、「メニューバーとそのメニュー」（159ページ）内の、メニューごとのセクションを参照してください。

  • クリップボードに対応しましょう。

    Mac OS Xは、クリップボードを全てのアプリケーションに利用できるようにしており、ユーザは、アプリケーションを切り替えても、クリップボードの内容が変更されずに残ることを信頼することができます。確実にクリップボードに対応し、あなたのアプリケーションでカット、コピー、ペーストの操作を実装してください。クリップボードを利用する操作の詳細は、「編集メニュー」（165ページ）と「フォーマットメニュー」（168ページ）を参照してください。

ユーザの想定する機能を実現せよ

最小限の要求事項に応えた後は、あなたはユーザが想定する機能を実現することに集中してください。

Macintoshユーザは見る目が磨かれており、その多くは、自分が使用するアプリケーションの機能性と手際のよさに、一定の水準を求めるようになります。

このセクションのガイドラインは、「最小限の要求に応えよ」（318ページ）で述べたものほど基本的ではありませんが、あなたのアプリケーションが提供すべき鍵となる機能を体現します。

Macintoshユーザの想定する機能を実現するには、必ず…

  • 効果的に伝達しましょう。

    Mac OS Xは本質的な情報を、ユーザに統一された効果的な方法で提供することに優れています。

    同様に、あなたのアプリケーションは、コマンドや長い作業において役に立つエラーメッセージや、適切な状態の情報を提供すべきです。これをどのように行うかの詳細は、「反応と伝達」を参照してください。

  • アプリケーションバンドルと、ドラッグアンドドロップ式インストールに対応しましょう。

    アプリケーションバンドルは、ユーザとあなたのソフトウェアの間のやり取りを単純化し、Mac OS Xで好まれるアプリケーションインストール作業のやりかたである、ドラッグアンドドロップ式インストールを可能にします。Macintoshユーザは短時間で、苦労のない、アプリケーションのインストール体験を想定しています。あなたのアプリケーションをバンドル形式で利用できるようにして、ドラッグアンドドロップ式インストールに対応することで、ユーザの期待に応えてください。

    バンドルとアプリケーションインストールの詳細は、「パッケージをつくる」（77ページ）と「インストール」（78ページ）を参照してください。

  • アクア形式のアイコンと画像を作成しましょう。

    Mac OS Xの魅力の一部は、美しく、実体感のある、写実的なアイコンの豊富さです。あなたのアプリケーションはMacintoshユーザが期待する高品位な種類の、魅力的なアイコンを表示するようにしましょう。

    さまざまなアイコンの種類と、これらをどのようにデザインするかの手引きは、「アイコン」（131ページ）を参照してください。

  • アクア配置ガイドラインに従いましょう。

    アクア配置ガイドラインに従うアプリケーションは、すっきりした、まとまった、直感的な外見と感覚をユーザに提示します。Macintoshユーザは、散らかっていない、便利な配置のコントロールを持つ、視覚に訴えるウインドウに慣れ親しんでいます。個々のコントロールの間隔をとるための参考として、「コントロール」（231ページ）を参照してください。どのようにコントロールをウインドウの中で組み合わせるかを示す例は、「配置の例」（289ページ）を参照してください。

  • 効果的なユーザ補助を提供しましょう。

    効果的で、すぐにでも利用できるユーザ補助は、優れたアプリケーションの証です。

    Mac OS Xは、ヘルプビューアに詳細なヘルプ文書を表示することができるAppleヘルプと、ユーザインタフェース要素についての手短な、文脈に依存する情報を表示することができるヘルプタグの両方に対応します。これらのヘルプ機構は広範囲にシステム、Appleアプリケーション、多くのサードパーティ製アプリケーションによって利用されるので、Macintoshユーザは作業やコントロールについて助けが要るときに、これらに頼ることができます。

    あなたのユーザへヘルプを提供するための、これらの機構についての詳細は、「ユーザ補助」（73ページ）を参照してください。

  • ドラッグアンドドロップに対応してください。

    ドラッグアンドドロップ機能は、Mac OS Xのいたるところに現れる、このプラットフォームの最も評価され、よく知られている機能のひとつです。あなたのアプリケーションにおいて、ドラッグアンドドロップ操作の代用としてのキーボード操作も提供すべきではありますが、この直接操作技術に完全に対応することこそが本質です。この技術の詳細は、「ドラッグアンドドロップ」（113ページ）を参照してください。

  • 表示名を使用せよ。

    Mac OS Xはユーザに、ファイル、ディレクトリ、アプリケーション名がどのように表示されるかを、カスタマイズできるようにしています。

    Macintoshユーザは、この選択を行うことに慣れ親しんでおり、彼らの環境設定は、ファイルシステムやアプリケーション内を通して監視されていることを想定しています。あなたのアプリケーションにおいても、必ずユーザの表示名の環境設定を尊重しましょう（これは国際化対応を簡単にするということも覚えておいてください）。拡張子と表示名についての詳細は、「ファイル形式とファイル名拡張子」（57ページ）を参照してください。

あなたのアプリケーションを差別化せよ

最小限の要求に応えることと、ユーザの想定する機能を実現することは、あなたが目標とする市場のユーザが、購入したくなるアプリケーションの製造へと向かう、長い道のりへとあなたを送り出すでしょう。

ピラミッドの頂点の層は更なる作業を表しており、その結果はすなわち、Mac OS Xの強力な機能の利点を完全に引き出した、ユーザの絶賛を浴びるアプリケーションです。

このセクションのガイドラインに従い、ユーザの期待を上回るアプリケーションを生み出してください。

  • モードの排除に対応しましょう。

    可能な限り、ユーザが何か他にできることを行う前に、現在の作業を完了させることを強制することは避けてください。

    ユーザにより高い自由度を与えるために、シートやドロワーを使用してください（シートとドロワーについての詳細は、「書類単位のモード式ダイアログ（シート）」（208ページ）と「ドロワー」（184ページ）を参照）。

    もしあなたのアプリケーションにおいてモードを持つ必要があれば、現在の状態を明確に伝達し、ユーザが簡単にモードを出入りできるようにしてください。

  • Spotlightを取り入れましょう。

    Spotlight技術はユーザに、彼らの定義した条件を用いて、システムのどこであってもファイルを見つけられるようにします。

    もし、あなたのアプリケーションが独自のファイル形式を使用するのであれば、あなたのアプリケーションが作成したファイルを、ユーザが簡単に検索できるように、必ずSpotlightインポータを供給してください。加えて、あなたのアプリケーションにおいてファイルシステム検索能力を提供するために、Spotlight技術を使用することも検討してください。Spotlightの詳細は、「Spotlight」（70ページ）を参照してください。

  • ファストユーザスイッチに対応しましょう。

    Mac OS Xは、ひとつのコンピュータで同時に複数のユーザが使用できます。ファストユーザスイッチにより、あるユーザのログインセッションは、他のユーザのセッションが背面で実行し続けている間に活性になります。

    ユーザは単純にログインすることで切り替わります。ユーザ間のログアウトは必要ありません。アプリケーションは複数同時のユーザ環境において失敗を避けるために、この機能を考慮に入れるべきです。もしあなたのアプリケーションが、リソースへの排他アクセスに依存していたり、同時に実行しているユーザあたりのサービスのインスタンスがひとつだけであることを仮定していたら、必ずシステムリソースを安全に識別、共有できるように、アプリケーションを修正してください。ファストユーザスイッチに対応するための詳細は、Multiple User Environmentsを参照してください。

  • あなたのインタフェースを国際化しましょう。

    あなたのアプリケーションのための世界的な市場は、地域限定の内容や機能に対応する度合いによって定義されます。

    あなたのアプリケーションをデザインする、もしくは見直す際に、あなたの製品をより簡単に、特定の市場に向けて各国語化できるように、言語や文化的な価値観、記号の違いを理解してください。国際化の重要な点についての詳細は、「国際的な互換性」（47ページ）を参照してください。

  • あなたのアプリケーションを、障害のあるユーザに利用できるようにしましょう。

    数百万の障害のあるユーザに到達するために（そして一部の市場における政府指定のアクセス性要求に従うために）あなたのアプリケーションがアクセス可能であることを保障すべきです。

    Mac OS Xはフルキーボードアクセス、スピーチ技術、ボイスオーバー、Macintoshに統合されたアクセス性インタフェースを含む、強力な機能の数々でアクセス性に対応します。あなたのアプリケーションをこれらの機能とともに試験し、これらの機能を妨げたり、利用できないユーザの体験を、劣化させる可能性のないことを確認すべきです。アクセス性の重要な点についての概観は、「ユニバーサルアクセス性」（49ページ）を参照してください。

  • 高い性能と信頼性のために努力しましょう。

    卒倒するほどすばらしいユーザインタフェースであったとしても、貧弱な性能であったり、直感を裏切り、信頼できない方法でふるまうアプリケーションを使い続けるようにユーザを納得させるには、十分であるとは思えません。

    知覚できる性能は、二つの事柄によって知らされることを忘れないで下さい。アプリケーションがデータを処理し、操作を行う速度、そしてアプリケーションがユーザに応答する速度です。Mac OS Xが提供するツールと、最適化技術の利点を活用し、あなたのアプリケーションの性能を向上させましょう。あなたのアプリケーションがすばやく応答し、長い作業の進み具合についてユーザに知らせ続けるようにしてください。高い性能を達成するための技術についての詳細は、「高性能」（31ページ）を参照してください。

    ユーザはあなたのアプリケーションがデータを失ったり、破損したり、不規則なふるまいをとるようであれば、すぐにそれを拒否するでしょう。

    できる限りのデータ消失に対する安全策を組み込み、問題の可能性に対して必ずユーザに警告し、危険な状況を避けるための代替となる選択を行えるようにしてください。データの消失をもたらすことがないとしても、予測できないふるまいは、ユーザのアプリケーションへの信頼を損ないます。

    あなたのアプリケーションにおけるユーザインタフェース要素は、アプリケーションが行うと約束したことをユーザが信頼できるように、想定され、求められた方法に従ってふるまうようにしてください。あなたのアプリケーションに信頼を与える方法についての詳細は、「信頼性」（35ページ）を参照してください。

  • 驚きと喜び

    他のガイドラインと比べると具体性に欠けますが、このガイドラインは、優れたソフトウェアの最も重要な資質を含んでいます。基本的に、ユーザは、自分たちを理解してくれているかのようなアプリケーションに喜びを覚えます。彼らの要求を予想し、それを強力で、直感的な、効率のよい解決策として提供するようなアプリケーションです。

    このガイドラインに従う最良の方法は、あなたのアプリケーションをデザインする際に、ユーザの心のモデルをしっかりと心に留めておくことです（この概念についての議論は、「ユーザの心のモデルを反映せよ」（40ページ）を参照）。手短に言うと、あなたはユーザの作業の流れ、想定事項、実世界の経験を明らかにして、これらをあなたのアプリケーションの用語、ウインドウ配置、メニューの体系と階層、そしてツールバーの構成要素に反映してください。

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